【ネタバレ有り】竜とそばかすの姫

竜とそばかすの姫の感想文です。本映画には気になる点が多数あり、批判的な文章になっておりますのでそれをご了承できる方のみお読みください。映画の核心などにも触れるのでネタバレ注意。なお、自分はクリエイターではないので、あくまで物語の一消費者の視点で無責任に批判をしています。

 

 サマーウォーズ時をかける少女で有名な細田守の新作、竜とそばかすの姫。舞台は二つ。主人公であり女子高生のすずがいる田舎(物語の終盤にその場所が判明)と仮想現実世界U。サマーウォーズにおいてはこの仮想現実は携帯や小型ゲーム機などを用いてアバターを操作する三人称視点だったが、本作では小型の機械を耳に装着することで五感を没入させるVRに似た一人称視点となっており技術の進歩が感じられた。サマーウォーズの「ジョーン」と「ヨーコ」のようにクジラが登場するも一匹だけ。(ここでサマーウォーズの二匹を登場させなかったあたりサマーウォーズからの離脱、別の物語を示唆しているか)物語の序盤はすずに焦点の当たった進行。バスと電車を乗り継いで高校に通うすずの周囲の人物として距離感のある父親に幼馴染のしのぶ君、学校のアイドルルカちゃんに親友で毒舌のヒロちゃんが存在する。すずの過去として母親が引き留めるすずを振り払って、雨で増水した川の中州に取り残された見知らぬ少女を助けてなくなるという重いものがある。そのせいか歌えない彼女に訪れた「U」の世界。生体認識からアバターを自動生成してくれるお手軽システムで美しい姿となりBelleとして登場。その歌は編曲され、拡散されて「U」の世界で一躍大人気になるというわかりやすいシンデレラストーリー。ここまではまだ風景描写も音楽もよく、物語もやや野暮ったく現実臭いもののテンポよく進んでいた。

 その後Belleのライブが「U」で大規模に開催される。そこに乱入するのが「竜」と呼ばれる道場破りのアバター。正義マンの集団に追いかけられていたが一対多にも関わらず撃退する。その様子を見てなぜかBelleは竜の力になろうと動くという謎。行動原理はわからないが一応は母親譲りの優しさと物語では理由付けられている。しかし、ライブをぶち壊されてなお救おうとするのはどういう心境だい……?

 この後、親友のヒロちゃんが裕福な家の子でネットに強く、「竜」の住処であるところの城を特定してもらうも、「物理の補講があるから」とBelleだけで単独潜入。そこで拒絶されるも帰り道に正義マンに襲われたところを助けられてなんやかんやでいい雰囲気となる。(ここも割と意味不明で困惑していた)

 学校でしのぶ君に声をかけられて手をつかまれていたところを勘ぐられて学校の女子の非難の的になるもヒロちゃんの暗躍とすずの説得により解決するところがコミカルなゲーム描写で比喩的に出されるも意味不明。物語の本筋とあまり関係がない上、この事件に裏から手を引く人がいるかもというが最後まで特に明かされず。(ちなみにこの手をつかまれていた描写から女の子から非難のメッセージが飛ぶ描写まで間に別の描写がいろいろと挟まれていたので今更?脚本どうなってんだよとなった)

 そしてこの途中人には裏表があり、秘密があるの比喩として、さらに竜の中の人候補としてサイコパス女性と人騒がせな芸術家が登場するも人物としての魅力がなく、物語で割と尺を取る割に微妙。ちなみにルカちゃんにも裏表があるのでは見たいなところがあったが最後までいい子だった。

 そしてこの後、クラスのアイドルルカちゃんに相談を受ける。ルカちゃんがしのぶくんを好きで、その相談であると早とちりしたすずは苦しむも最後はルカちゃんの手助けをする。家に招待して、駅まで送ったところでルカちゃんの本当の好きな人がカミシンであることが判明。カミシン?そうこの物語においては序盤に一人カヌー部を立ち上げ勧誘する様子と、実際にカヌーの練習しているところ、そしてその終わりにすずとしのぶくんに会って話したぐらいしか登場のない(とはいえネームドの)登場人物である。このルカちゃんのしのぶくんへの間接的告白に対してはコメディに尺を取っているが正直なぜここに尺を取っているのか時間配分はどうなっているのか。この監督は正気なのかといろいろと困惑が絶えなかった。

 この直後にすずは二人を駅において帰る帰り道でしのぶ君に会う。しのぶ君からすずの正体がBelleであることを言い当てられる。同時に「竜」が正義マンに襲われていることをヒロちゃんから教えてもらいヒロちゃんのもとへ向かう。なぜすずの正体がBelleであることが分かったのかは劇中明かされていないのも謎ポイント。またヒロちゃんのもとへ向かいながら「U」の機械を装着し走り出した描写があり、Uでもその現場に駆け付けていたのだがその原理は不明。ダイブ型の仮想世界ではなかったのか。よしんば連動型だったとして同時に駆け付けるのは無理だろ。

 ヒロちゃんのもとへ駆けつけるときには「竜」の城は正義マンによって荒らされており、中にいたAIの案内キャラは痛めつけられていた。最終的に城は燃やされてしまうのだが謎。比喩表現ではなく本当に燃えているのだ。意味不明である。案内キャラにより「竜」のところに駆け付けるも拒絶されてしまったすずは「竜」の本体への特定を試みる。50億の中から一人を見つけるというPVでも使われていた主題に対して、独特の推理(人となり、子供である、過去に得た情報など)から無事特定。その結果わかったのが竜の正体は父親から虐待されている兄妹の兄だった。弟がライブ配信をしていたのでコンタクトを試みるも拒絶される。しのぶくんがアバターでなく現実のビジュアルで歌うしかないというこれまた極端な解決方法を提示され承諾。正義マンの親玉が謎に持っていたアバターを無理やり現実世界の姿に戻す神に等しい力を持つ道具のコントロールを奪って自分に使い、元の姿で歌う。

 これにより「竜」はBelleを信じ自分の居場所を伝えようとするも父親にバレて通信を遮断されてしまう。しかし、ルカちゃんによって防災無線の曲が2種類流れている地域の境であることと、窓ガラスの解像度を上げることで特徴的な2種類のビルを描き出し、場所が東京であることを特定。(マジでここは意味不明。ちなみに視聴者にはおそらく絶対に分からない。作中では検索によって特定していた)二人を保護してもらおうと連絡をするもルールにより動けないとのこと。すずはその場にいた合唱団の大人に駅まで送られて一人高速バスにのって東京へ(意味不明、田舎と都会を描写したい気持ちはわかるが東京にする蓋然性が感じられない。時間的なラグも気持ち悪い)しかし、当然特定したのは漠然としたエリア(地区境であることと窓からビルが見える位置であること)だけなのでどうやって再開するのかと思いきや住宅街で二人がたまたま脱走したところに合流。二人を父親から気迫で守る。特に二人の現実的な救済は描かれず、すずは故郷に戻ってみんなに迎えられて終幕。

 

ということで音楽と映像は本当に美しくよくできていたが脚本が説明足らず、尺の配分が悪く作りが悪いという印象。全体としては美女と野獣、親の虐待から子供を守るすずという構図だったがすずはしのぶくんが好きで両想いのような描写が最後になされるためどちらかというと庇護の関係を受け継いだ形。母親の優しさがすずにも受け継がれているという説明があるも無償の愛にも程がある。そして、物語の二大ヒールである正義マンの親玉と父親の言動が典型的なものでコテコテな感じが鼻につく。集団心理、外野のコメントなどはやけにリアリティを伴っているためここにちぐはぐさもうかがえる。あるいはこんなに頭の悪い人間達が実在するというのだろうか。

 

後半の謎の疾走感と不合理さは困惑の極みであり、二人を東京にする意味や自分の居場所が伝えられず、ほかの人が推理をするというのはどうなんだろうか。結果、すずとの再会には二人の脱走という不可解な現象をさらに要求することになっておりどうかしている。

 

またこれは自分の読解力の低さが原因かもしれないが、しのぶ君の「U」におけるアバターはわからず、正義マンの正体も不明。(父親かあるいは途中の野球選手と推察できる)物語上比較的重要なしのぶ君がBelleの正体がすずだとわかった理由は幼馴染だからとしか言えない状態となっておりもやっと。

 

周りの合唱団の大人というのも役割としてもう少しすずの力になれるはずだが、サマーウォーズと違って活躍することなく、最後にすずを送り届けて元気づけるぐらい。

 

総じて脚本の構成が悪く、その筋書きもイマイチで気になるところの多い作品だった。せっかく、仮想世界という大掛かりで魅力的な舞台装置を用いていながらそれを生かせていないところが期待が大きかった分落胆もひとしおである。

 

【追記】

途中に2回、落書き調のアイコン二人が配信していた生放送がありそのうちの1つの落書きのキーホルダーをすずがつけていたが全く回収されず意味不明。その配信の描写も時間かけて一応物語の本筋に寄与するものの全体の評価の低さから低評価になってしまう。なんだったの有れ???