車輪の下

研修中暇だったので近くの本屋で購入し今しがた読了したので備忘録を兼ねて感想を述懐する。当然大きなネタバレも含むため今後読むつもりがある人は注意。

 場所はドイツの片田舎、主人公ハンス・ギーベンラートは父親との二人暮しをしている学生である。冒頭は神学校への受験編である。神童と呼ばれ、先生らから寵愛を受け神学校へ受験し無事合格するまでがやや長い。彼は努力する秀才であり、それゆえ頭痛に悩まされていた。釣りが好きという子供らしい一面もある。受験当日は都会の子どもたちにビビらされていて本人もそれに感化されひどく弱気で試験終了後はさながら敗戦処理を待ち構える将校のような面持ちで故郷に戻るシーンは印象的。これは落ちても受かっても物語として面白いと思ったが蓋を開けてみれば非常に優秀な成績で合格する。
 神学校編は様々な個性あふれる級友とともに勉学に励んでいたが悪友と一度は破綻した友情を育み、重んじたゆえに学業がおろそかになり、級友に疎まれ孤立しノイローゼとなった結果、故郷に帰ることに。
 父親は落ちぶれた息子との距離を図りそこねていて、ハンス自身も鬱屈した日々を過ごす。そんな中、りんご絞りのイベントで出会ったエンマに恋をする。その夜エンマ会いたさ、ひと目見たさでエンマの家に向かって外から見ていると気付かれて話をすることに。そしてしばしの対話の後にエンマにキスをせがまれキスをする。なあなあで恋人関係のようになったハンスだが1週間もしないうちにエンマが元いた場所に戻ったことを知る。自分に黙って去っていったエンマに絶望するハンスだったがそのタイミングで父親からそろそろ機械工かなにかにならないか打診される。学生時代の友人アウグストが機械工をしており、勧められたハンスは機械工となった。機械工としての仕事で歯車のヤスリがけを行い手の豆の痛みに苦しむなどする。そんななか、アウグストに機械工らと集まって休日に飲みに行くことを誘われる。父親からは軍資金を貰えてアウグストらとともに酒を飲みワイワイする。飲み飲んだハンスはそのまま夜まで家に帰ることはなく川に入ってしまい、翌日冷たくなったハンスを村の人が見つけて父親を始め周りの人が失意の中、物語は幕を閉じる。
 
 冒頭からハンスは努力家であり、辛くもその才能をいかんなくなく発揮し周囲の期待に答えようとしていた。そうして受験に合格して新学校生活が始まる。そこからは思春期の集まりによる様々なイベントを経て、彼は次第に周りの期待にそぐわなくなっていく。ノイローゼになり故郷に帰ってからは自殺を仄めかす動きをしながらも自然や村と関わっており、エンマと恋仲になったときは巻き返すかと思いきやエンマが消え、機械工となり励んでいこうとした矢先に突如としてしんでしまう。最後の数ページでハンスの死が確定的となったときは驚いた。酒によったハンスの主観的描写から淡々と冷たくなったハンスが発見されるまでの怒涛の展開は筆舌に尽くし難い。ハンスがなくなる直前父親が彼の帰りの遅さに苛立ち、怒り、彼が帰ったら徹底的に説教してやるという描写からの彼の死が、印象的で読んでいて辛かった。
歯車が噛み合わなかっただけなのだ。父親は知らない、わからないがゆえにハンスを苦しみから救うことができず、彼の故郷の教師や神学校の先生らもまた彼を理解し指し示すことができていなかった。物語の中盤に挟まれていたハンスの神学校時代に同級生が誤って冬の池に落ちてあっけなくなくなっていた場面は彼の行く末を暗示していたのかも知れない。